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2007年09月

■ 小野篁外伝 Episode 2

小野篁がなぜ隠岐(海士)に遠島になったのか?

西暦837年、篁は遣唐使に任命されたんだけど、役職としては2番目だった。

出発前にこんなことがあったんだって。

隊長の藤原常嗣の乗る船がどうも具合が悪い。

そこで篁に船を変わるように命令したそうな。

篁はむかついた。

当時すでに、命の危険を犯してまで遣唐使を送るなんて、あまり意味がないと思っていた彼には、我慢できないことだったんだね。

出発当日、仮病を使って遣唐使船に乗らなかったんだって。

これに当時の帝、嵯峨天皇が怒ってしまった。

なんとか死罪は免れたけど、その次に重い流刑にされてしまったんだ。

西暦839年。篁38歳の時のこと。


篁が隠岐に流されたあたりのことを、少し書いてみようか。


Episode 2 流人となった小野篁
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ここは隠岐の國海部郡(現在の海士町)豊田村。

片肘を着き、篁は草っぱらに寝転んでいた。

そばで野生の馬が草を食べている。

篁がこの島に来てから手なづけた馬だ。

一見冷たい印象を受ける男であるが、篁には人も動物も引きつけるような不思議な魅力があるようだ。

空高くとんびが舞い飛び、海面近くをかもめが飛んでいる。

篁はそれをぼんやり眺めていた。

―あいつら…互いの飛ぶのを邪魔もせず、とんびはかもめを見下す風でもなく、かもめはとんびをうらやましがるでもなく、どちらも堂々と翼を広げて飛んでいる。

「篁さま。またここにいたんですね?何を考え事してるんですか?」

いつの間にかそばに来ていた、島の若者が声をかけてきた。

篁が時々読み書きを教えてやっている男である。

「あぁ、お前か。今、鳥を見ていたのだ。」

「鳥ですか?ははは、相変わらず暇そうですねぇ。」

男は愛嬌のある顔で笑った。

「お前もそうだが、この島の人とあの鳥たちは似ているよ。」

「おらたちと鳥が?どこが似てますか?」

「俺は都ではある程度の位についていた。しかしここにはただの重罪人として連れて来られた。
なのにお前たちは俺を、肩書きや今置かれている状況など関係なく一人の人間として付き合ってくれている。
なんか余裕を感じるのだ。堂々としているんだよ。お前たちは。
人のありのままを受け入れて、しかも自分たちの生き方にも誇りを持っている。
分かるか?俺の言いたいことが。」

篁に言われ、男は少しまじめな顔で考えていたが、また相好を崩して答えた。

「わかんねぇですよ。おら、そげなむずかしいこと。分かるようにまたいろんな事教えてくださいよ。」

篁は笑った。彼はこの若者の純朴さが好きだった。

「知らないことを学ぶのは楽しいか?」

「おら、ここと隣の島ぐらいしか行ったことねぇから、もっといろんなところ行って、いろんなこと知りたいんだ。
日本国だけじゃなく唐にも行ってみてぇ…あっ、すまねぇ。篁さまは遣唐使になって唐にいくのが嫌で、仮病を使ったんでこの島に流されて来たんだったなぁ。」

篁は思わず苦笑した。

「はっきり言うなぁ。でも、その通りだ、俺は遣唐使船に乗らなかったんで遠島になった。
まぁ他にも理由はあるけどな。」

「都に帰りてぇですか?」

男は真剣な顔になって聞いた。

「おら、知ってんですよ。篁さまが金光寺山に登って、毎日てっぺんの祠(ほこら)で都に帰れるよう祈願しているってことを。」


篁が毎日金光寺山に上っていたのは事実であった。しかし都に帰れるよう祈願するためではなかった。

篁は時間を移動できる。そして今では空間さえも移動できるようになっていた。(もちろん閻魔…いや、未来に生きる実の父のおかげではあるが)

都では井戸を使って時空間移動をしていたが、この島に来てからは金光寺山頂の祠をそのために使っていたのだった。


―俺は遣唐使なんかしてる暇はないんだよ。それに必要もないし。その気になればどこにだって、未来にだって行けるんだぜ。

篁は自分が隠岐に遠島される未来を最初から知っていたのだった。

―俺にとってはどこに住もうが関係ない。都を離れた方が上からの目を気にせずにすむし、ちょっとやりたいことがあるからな。


篁が隠岐に流されることを選んだ目的は… (つづく)


(この物語はフィクションです)


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■小野篁 外伝 (この物語はフィクションです)

平安時代初期のお話。
身長188cm、超ハンサムで少しワイルドな貴族がいた。
この男、遣唐使船に乗るのをすっぽかし、海士に流されたことがある。

そして彼はまた、今の世にかなり不思議なエピソードを残している。

そのエピソードを元に、フィクションを交えたソフト・ハードボイルド・ファンタジー小説を書いてみました。 

プロローグ
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時は平安時代のはじめ。
 
都では貴族たちが栄華を極め、その名のとおり平安に過ぎ行く日々を、歌を詠み、
恋をし、蹴鞠などして暮らしておった。
 
しかし、どんな世にも一風変わった人間はいるもので、
彼らが持つその不思議な魅力ゆえに、後世まで名を残すことになるのである。
 
ここに紹介する男も、不思議人間としてはトップクラスであろう。
 
男の名は、小野篁(おののたかむら)
不思議人間としては超有名な陰陽師・安倍晴明より、さらに100年以上も前に、
こんな妙な男がおったのだ。
 
身長188cm。その時代としては異常とも言える長身で、しかも都の女たちがよだれを垂らすほどの超美形だったというではないか。
しかもしかも、他人に頭を押さえつけられるのが大嫌いな性格で、
その反骨心がこの男前に程よいワイルドさを加えていた。
 
なんとも腹が立つほど完璧に、モテ要素を備えているではないか。
 
でも、そのルックスだけでは後世まで名を残せない。
『今昔物語』や『宇治拾遺物語』などにこの男について書かれた中に、
飛びぬけて奇妙なエピソードがある。
 
それは、冥界につながる入り口である井戸に、毎夜のように忍び込み、
閻魔大王のとなりで死者を地獄に送るどうか裁く役人をしているというものである。
 
あるとき、藤原良相(よしみ)という男が冥界にやってきた。
実はこの良相という男には、篁が昔世話になったことがあった。
そこで篁は閻魔大王に事情を話し、この男を生き返らせてくれるよう頼んだ。
すると良相は息を吹き返したのだが、なぜ篁が冥界にいたのか不思議に思い篁本人に聞いたところ、「くれぐれもこの話は人に言わないように」と口止めされたという。
 
まずは小野篁を紹介するために、このエピソードについての真相をお話しよう。
   


Episode 1 冥界の役人・小野篁
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下弦の月の薄明かりが、寝間に横たわる藤原良相(よしみ)の姿を、
闇にかすかに浮き上がらせている。
 
その顔は青白く、すでに生気は微塵も感じられない。
篁はひとり良相の傍らに座り、切れ長の瞳でその顔をじっと見つめていた。
 
ちょうど時は丑三つ時。人に代わり、魍魎どもが自由にこの世を動き回ることができる時間だ。
篁は最近都で己に関しての、さまざまな噂が広まりつつあるという事を思い出した。

「小野篁は冥界から呼ばれて、毎夜井戸から地獄へ降りて行くらしいぞ」
「閻魔の側で、死んだ人間を極楽に送るか地獄に落すかを裁く手伝いをしておるそうだ」

―あの世の魍魎どもがこの世に遊びに来る時刻に、逆に俺はあの世に遊びに行くってか。
フフッ、面白れぇ。それではこんなところを見られたら、また噂が大きくなるかも知れねぇな。

篁は良相のふとんをはがし、彼を肩に担ぎ立ち上がった。
身長188cm。この時代には考えられない長身である。
しかし、細くしなやかでありながら鋼のように強靭な筋肉に包まれた体は、
理想的なバランスがとれており、大男という感じはしない。

良相を軽々と担ぎ、人目に付かぬよう足早に屋敷を出、篁は月夜の道を駆けた。
いつもの井戸の前に立ち、篁はしばらく精神集中をしたかと思うと、
突然良相を担いだまま井戸の中に飛び降りた。

―あまり噂になってもめんどうだし、この井戸を使うのも、
そろそろやめておいたほうが良いかもしれないな。

降り立ったところは水の中… ではなかった。

「今戻りました」
「おお、篁。待っていたぞ。どうしたのだ。その肩に担いだ男はなんだ?」
迎えた男は少し驚いたようだった。

「今日はお願いがあります。実はこの方は以前私が世話になったことがある方なのです。
病で命を落としかかっております。どうか、助けてもらえないでしょうか」
篁がそう言うと、男は少し困った様子だった。
「そ、それは… まぁ、とりあえずそこに寝させなさい」

篁は言われた場所に良相をそっと下ろした。
それは、柔らかい乳白色の光に包まれたカプセルだった。

ここは冥界ではない。もちろん迎えた男は閻魔大王でもない。
最新の科学技術を駆使した、あらゆる設備が整った研究所である。
さっき篁が飛び降りた井戸の中に時空の歪みをつくり、この研究所へとつなげている。

男はその研究所の所長であり、篁の実の父親でもある科学者であった。
(これについては話が長くなるので、別の機会に…)

「篁よ。この男を救えばその後の未来が変わり、歴史が変わってしまうかもしれないのだぞ。
いくらお前の頼みとはいえ…」
「父上。お忘れですか?赤子の私を過去の世界に預けたのはあなたですよ。
それも歴史を変えることではなかったのですか?」

篁に言われて、所長は言葉に詰まった。
「いや、それは… 分かってくれ。あれは止むを得ない事情があったんだよ」

篁は笑いながら答えた。
「分かってますよ。別に恨んではいません。逆に感謝していますよ。
過去と未来を行き来できるなんて、こんなに面白いことはないですよ。それより、早くこの方を…」

「分かった。良いだろう。お前がそれほど言うのなら、この男、よほど善良な男なのだろう。
助けてやろう。そのカプセルを閉めて少し下がっていなさい」
そう言うと所長はカプセルのスイッチを入れた。

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にぎやかな小鳥のさえずりと朝日のまばゆさに、藤原良相は屋敷の寝床で目を覚ました。

「お目覚めになられましたか、良相殿」
「篁か?」
良相はふとんから起き上がった。

「どういうことだ。体が少しも苦しくない。…私は夢を見ていたのか?」
「どうかなさいましたか?」
篁は微笑を浮かべながら静かに尋ねた。

良相はあらためて篁の顔をじっと見つめた。
女のように美しい顔だと良相は思った。
「お主、噂は本当だったのだな。私は死んで冥界に連れて行かれたのだ。
するとそこに、閻魔と並んでお主がいたのだ。
お主は私を助けてくれるよう閻魔に頼んでくれた… 
そうか、それで私は生き返ったのだな。そうだろう、篁よ」

―良相殿、少し記憶があるのだな。父上が閻魔。そして俺が冥界で閻魔の補佐をする官吏だというわけか。
まぁ、そういうことにしておいたほうが良いだろうな。本当のことがばれるよりかは。

篁は良相の耳に顔を寄せ、低い声で言った。
「良相殿。そのことはくれぐれも誰にも言わないでいただきたいのです。約束してくれますか。
でないと…」

「わ、わかった。絶対に誰にも言わぬ」
良相は何故かゾクッと身震いをして、あわてて返事をした。
 
……………………………

しかし、後世までこの話は残っている。
 
ということは、
 
さては良相、言いふらしたな!

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